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草原景観

概要

夏目漱石(なつめそうせき)は初めての阿蘇行での印象(いんしょう)を『二百十日(にひゃくとうか)』の中で「行けど萩ゆけど(すすき)の原広し」と()んでいます。
阿蘇の植物景観(しょくぶつけいかん)の中心はやはりその広大な草原です。かつてはその広さは6万ヘクタールともいわれ、日本を代表する山地草原です。漱石が詠んだのは主に中央火口丘北麓(ちゅうおうかこうきゅうほくろく)の草原のようづすが、外輪山上の草原はさらに広大です。北外輪山上には二重の峠(ふたえのとうげ)から九州横断道路(きゅうしゅうおうだんどうろ)まで約1万ヘクタールもの端辺原野が広がり、東部の波野ヶ原、東南部の山東原野と続き、さらに大分県の久住山麓(くじゅうさんろく)へとつながっています。久住高原と(あわ)せた草原の広さは西日本最大規模となり、その広がりは日本の箱庭的(はこにわてき)景観(けいかん)が多い中にあって大陸的ともいえ、北海道や東北地方のものと並び、日本を代表する草原となっています。
一見何の変哲(へんてつ)もなさそうな緑一色の絨毯(じゅうたん)のような草原ですが、湿地まで含めると600種類以上もの植物が生育しています。そして朝鮮半島から中国東北部にかけて生育しているものとの共通種が多いのが特徴(とくちょう)です。それは今日より気温が低く、日本列島がユーラシア大陸と陸続きだった時代に分布を広げた植物が、その後の地球温暖化(ちきゅうおんだんか)衰退(すいたい)していくなかで、阿蘇では冷涼(れいりょうな)な山地気候によって生き残っているからです。また、それらの中には隔離(かくり)により種分化(しゅぶんか)して固有種(こゆうしゅ)あるいは固有亜種(こゆうあしゅ)になったものもあります。
ハナシノブツクシマツモトアソタカラコウなどのように阿蘇の草原固有のものや、阿蘇から九重にかけての草原だけでしか生育が知られていないアソノコギリソウヒゴシオンヤツシロソウヒロハトラノオツクシシオガマツクシフウロ・ツクシクガイソウ・ケルリソウなどもある。また阿蘇で最初に発見されたアソヒカゲスミレやアソキクバスミレなどもあります。


阿蘇の草原は野の花の宝庫で、四季を通して草原に彩りを添えている。春が遅い阿蘇でも四月になると日平均気温が五度を超えるようになり、やっと早春の候を迎える。野焼きで黒く焼け焦げた大地も一雨ごとに若草色に衣替えし、長草型(ちょうそうがた)の草原ではススキが伸びる前までの短い期間に咲き急ぐかのようにスミレやキスミレハルリンドウオキナグサイチリンソウツクシシオガマなどが、また北外輪山の湿地ではサクラソウリュウキンカなども一斉に咲き、紫・黄色・青・白・赤と色彩豊かに(はな)やかに(いろど)ります。
五月も立夏を迎えるころになるとオカオグルマが、中旬にはノアザミと、東外輪山の波野ヶ原では九州では阿蘇だけからしか知られていないスズランも咲く。下旬にはシライトソウのブラシのような細長く白い花が強い芳香(ほうこう)(ただよ)わせます。
6月になると日射も一段と強まり、オカトラノオクララハナウドなどの白い花が清涼感を与えてくれます。ユウスゲや湿地のノハナショウブが咲き始めると梅雨の到来です。梅雨最盛期の6月下旬にはカワラナデシコのピンク色の清楚(せいそ)な花も咲き、東外輪山上では日本ではこの地域固有(ちいきこゆう)の名花ハナシノブツクシマツモトアソタカラコウなどのほかヒメユリなどがひっそりと咲きます。7月になるとアソノコギリソウ・ツクシクガイソウ・ヤブカンゾウハンカイソウ・クサフジ・ツルフジバカマ、また北外輪山上の湿地ではエゾミソハギオグラセンノウなども咲き、中旬にはオミナエシサイヨウシャジン・オグルマ・ワレモコウ、湿地ではサワヒヨドリなども咲きます。下旬には日平均気温が20度を超え、立夏から約2か月も遅れてやっと初夏の候を迎えたといった感じで緑濃い草原にコオニユリ赤橙色(あかだいだいいろ)の花が彩りを添え、マツムシソウも咲きます。8月になるとヤツシロソウキツネノカミソリホソバシュロソウヒロハトラノオなどが咲き始め、中旬にはタムラソウ、東外輪山ではヒゴタイ、また北外輪山の湿地ではツクシフウロシラヒゲソウなども咲きます。阿蘇の夏は名ばかりで、下旬には日平均気温が20度を下るようになり、ススキの穂も伸び、ヤマハギやシラヤマギクが咲き、すっかり秋の気配となります。
9月になるとシオンキオンタチフウロ、北外輪山上の湿地ではヒゴシオンが咲き、下旬にはウメバチソウセンブリアキノキリンソウも咲きます。
10月になると日平均気温は15度を下回り、阿蘇の花ごよみを締めくくるようにリンドウヤマラッキョウツクシアザミハバヤマボクチも咲き、すっかり晩秋(ばんしゅう)の気配となります。下旬には日平均気温は10度を下回り初霜をみることになるとミヤマカンギクやヤクシソウの黄色い花も咲き終わり、冬枯(ふゆがれ)れの野へと足早に変わり、来春までの長い冬の眠りの時期を迎えます。

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カテゴリ : 阿蘇ジオパーク
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