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草原のネズミ

概要

日本には約20種のネズミが生息し、阿蘇には8種の生息が確認されています。阿蘇のネズミたちには、環境省によって編集されたレッドデータ・ブックにリストアップされるような種は含まれていません。
阿蘇のネズミたちは分類上ネズミ目、ネズミ科に属し、さらに大きく2つのグループに分けられます。尾が長く、耳が大きく体の格好がスマートで、いわゆる一般的なネズミのイメージをもつネズミ亜科と、尾ガ短く、耳が小さく、体の格好がずんぐりし、ネズミ亜科より穴居生活に適応してモグラのようなハタネズミ亜科です。前者にはカヤネズミヒメネズミアカネズミ、ドブネズミ、クマネズミおよびハツカネズミが属し、後者にはスミスネズミとハタネズミが属します。
また、正式な分類法ではありませんが、ネズミの生息場所が環境によって比較的明確に区別できることから、家ネズミと野ネズミに分けられます。家ネズミは私たち人間の日常生活との関わりが深く、人家の中やその周辺地域を主な生活の場とするネズミ亜科のネズミで、ドブネズミ、クマネズミおよびハツカネズミです。一般にゴキブリと並んで嫌われるネズミで、衣服をかじったり、ミルクの臭いのする乳児に噛み付いたり、病原菌を媒介したり、街やビルに張り巡らされたコードをかじり、オンラインや新幹線を止めたりすることもあります。しかし、一方で医療技術の発展や新薬の開発に貢献してきたのもネズミの仲間で、実験動物としてのネズミはもともと野生の状態であったいくつかの種を、長い間実験室で継続して繁殖させ、改良してきたものです。

野ネズミは人家に侵入することが殆ど無く、野山を生活の場としているネズミたちで、ネズミ亜科のカヤネズミヒメネズミアカネズミハタネズミ亜科のスミスネズミとハタネズミです。野ネズミは人々の日常生活とはほとんど関係ないのですが、稀に個体数が異常がに増加して農林業に被害を与えたり、ツツガムシ病などを媒介することもあります。しかし、彼らは木の実をいたるところに運ぶ阿蘇の植林者であり、彼らを捕食する動物たちの餌資源でもあるように、阿蘇の生物のサイクル(生態系)を支える重要な役割を果たしています。また最近の畜産学の分野では、牛などの草食性家畜のための実験動物として、ハタネズミが広く利用されるようになってきました。阿蘇の草原と深く関わって生活をしているのはこれらの野ネズミたちです。

生活

世界的にみた場合、ネズミの生息域は熱帯から寒帯、低地から高地、密林から砂漠にかけてなど、海を除く世界の様々な環境に広がっています。基本的には、地表面を中心とした生活をしていますが、中にはヨーロッパや北アメリカに生息するミズハタネズミの仲間のように、かなり水の生活に適応したものもいます。阿蘇のネズミたちも、その生息環境を細かく調べていくと、種によって少しずつ異なっています。

アカネズミ

阿蘇に生息するネズミ亜科のアカネズミは林縁部から草原にかけて地表面を中心とした生活をしています。アカネズミに比べて、尾をバランサーとして使うことの上手なヒメネズミは、森林の深部のうっ閉度の高い所(樹木によって閉鎖され、空があまり見えない場所)を好み、樹上生活にかなり適応しています。
尾の使い方がさらに上手で体重の軽いカヤネズミは、草原、休耕地及び河川敷などのススキやトダシバの繁った所で、葉上に適応した生活をしています。年中草の上で生活しているわけではありませんが、繁殖期には外敵から子どもをまもるため、ススキなど少し草丈の高い植物の葉を巧みに利用し、鳥の巣のような球巣を造ることで知られています。巣の中心部には、葉を丁寧にシュレーティング(葉を噛み砕いたり、繊維質をほぐして柔らかくする)したものが敷かれ、数時間で1つの巣が造られます。

スミスネズミ・ハタネズミ

ハタネズミ亜科のスミスネズミとハタネズミは、樹上や葉上に上がることは全くできず、地表から約60cmくらいまでの深さに掘られたトンネルでの生活を主体としています。このように似た生活形態をもつ両者であるが、前者は森林の湿度の高いところを好む傾向にあり、後者はほとんど草原から疎林にかけて生活しています。
これらの生息域は必ずしも一定したものではなく、季節、繁殖活動状況、個体群密度、他種との競合関係および生息地の標高などによって大きく変動します。例えば、アカネズミは草木の繁る夏場には、繁殖による個体数の増加と高い分散活動とから、草原へ多数侵入していきます。ところが、草が枯れ、木の葉の落ちた冬場になると、個体数の減少とともに林縁部を中心とした行動圏をもつようになります。また、スミスネズミは環境の僅かな変化(草原の森林化など)や、隣接して生息するハタネズミ個体群の密度バランスなどによって、草原への侵入を積極的に繰り返します。四国のようにハタネズミの生息していない地域では、そのニッチ【生態的地位】をスミスネズミがほとんどを占めています。一方、種間の生息域も必ずしも明確に区別できるわけではなく、周辺域ではそれぞれオーバーラップしています。このような場合には、相互の争いをなるべく避けるため空間的あるいは時間的に、活動範囲および餌場などに現れる時間をずらしています。

環境

食性

家ネズミは人の生活と密着しているため、基本的に人の食べるものは何でも食べ【雑食性】、人の寝静まった夜に活動する夜行性です。野ネズミの場合、餌環境によっては雑食性を示すが、基本的には種によって主たる食べ物が決まっています。アカネズミヒメネズミはシイ類やミズナラなどの木の実を主食とする植物食(食果性)ですが、繁殖期など季節によって昆虫類や多足類などの動物食をかなり行います。彼らの行動は、野ネズミの中で最も夜行性の傾向が強い。カヤネズミもイネ科植物の実などを主食としますが、季節によっては昆虫などもかなり食べます。活動は夜だけでなく、昼間も比較的頻繁に行われているようです。スミスネズミとハタネズミは、ネズミ亜科のものと比べてより植物食(草食性)の傾向が強いのですが、スミスネズミはある程度木の実や昆虫なども食べているようです。しかしハタネズミは草の芽、根、茎、葉および樹皮などを主食とするほぼ完璧な草食性です。両者の活動は、ネズミ亜科より食性が植物食に傾いているぶん、栄養補給の面などから夜だけでなく、昼間も動き回る必要があります。昼間の草原をウロウロしなければならないハタネズミは、それだけ他の動物から餌として狙われる確立が高くなります。したがって、ハタネズミは通常ラン・ウェイ(下草や枯れ草で地表面に網の目のように張り巡らされた坑道)を使って活動しています。また、これらの食性や日周活動も競合する種間との競争によって左右され一般に優劣な種ほど栄養価の高い食事をし、捕食者などに襲われる可能性の少ない夜に活動します。劣勢な種は栄養効率の悪い食事をし、不足した栄養を補うために危険な昼間も活動することになります。

阿蘇の草原と密接な関係を持っているのは、カヤネズミハタネズミです。とくに、ハタネズミは生活のすべてを草原に依存し、草原の存在や環境が彼らの種族としての優占度を決定づけていると言っても過言ではありません。したがって、個体数は草原の環境変化に大きく左右されます。一見同じような草原でも、ほとんどハタネズミを見かけることができなかったり、時には個体数が異常に増加し、農林畜産業に被害を及ぼすようなこともあります。過去には1992年に阿蘇北外輪山を中心にハタネズミが異常繁殖しました。

ネザサの開花・結実とハタネズミの異常増加

1992年に阿蘇の草原一帯でネザサの一斉開花・結実が見られました。開花・結実は阿蘇北外輪山を中心に4町3村にまたがり、その総面積はこれらの町村における全野草地の約21%を占め、2157㌶に及びました。この開花・結実と、時期と地域がほぼ重なるようにハタネズミの異常増加が見られました。
元来、ネズミは大盛な繁殖力をもつことで知られています。至る所に巣穴が掘られ、その周辺にはネザサの身が集められ一帯は網の目のようにラン・ウェイが張り巡らされ、日頃、野外で直接見ることのできないネズミを昼間でも簡単に観察出来ました。
さらにその落下直後から発芽した若い葉や根がハタネズミの重要な餌となり、多くの個体数を支えました。しかし、食べ物が不足すると、通常はほとんど口にしない周囲の若い植林木の樹皮や根などをかじり、被害をもたらすのもこの時期です。高原野菜として栽培されている大根をかじり、被害を与えました。

個体数の変動

阿蘇の草原では通常火入れと採草の中止による草原の荒廃が、ネズミの異常増加を引き起こすきっかけになるものと思われます。ネザサの開花・結実との関連で広い範囲で増加するのは、ササが60年あるいは120年の周期で開花・結実するといわれてきていることからも比較的稀な現象といえます。ただし、火入れと採草の中止されたすべての地域でネズミの異常増加がみられるわけではありません

参考

阿蘇ー自然と人の営みー

カテゴリ : 阿蘇の自然
索引 :

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