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古神(こかみ)の化(ば)け月(づき)
更新日: 2010-04-20 (火) 11:53:35 (5092d)
古神は、昔は寂(さび)しい所でした。そして、道路沿いに1本の大きな榎(えのき)がありました。その榎に1匹の古狸(ふるだぬき)がいて、毎夜道行く人を騙(だま)して喜んでいました。
色々な化け方を知っていましたが、一番得意なものは、「月見(つきみ)の枝(えだ)」でした。それは、タヌキがその榎にのぼって、枝ぶりのよい枝と美しい月に化けることでした。淋(さび)しい夜など、古木の榎の枝にかかる名月(めいげつ)の風景は絵より美しく、人々は心をうばわれ、うっとりと見とれるほどでした。このことは、たちまち評判(ひょうばん)になり、タヌキの仕業(しわざ)と知らないで、月見に訪(おとず)れる人が多く、「古神の月」と呼ばれて名所になりました。
ある寒い夜、満月の日でしたが、雲がかかって本当の月は見えませんでした。タヌキは、その日も人をおどろかすつもりで月を出していました。そこへ他国から一人の旅人が通りかかりました。
「噂(うわさ)には聞いていだが、古神の月はすばらしい眺(なが)めだ。」
といって立ちどまり、魅(み)せられたように眺めていました。
すると、本当の月が雲間(くもま)から出て、月が二つになりました。その旅人はびっくりして、
「どちらの月が本当の月だろうか。」
と独(ひと)り言(ごと)をいいました。
タヌキはそれを聞くと、あわてて自分の月を消しました。
「あら、一方の月がなくなった。あの月の方がきれいだったのに…。」
それを聞くと、タヌキはいい気になってまた月を出しました。旅人は、
「ああ、気味がわるい。月が二つになったり一つになったり、全く奇妙(きみょう)なことだ。」
といって、一目散(いちもくさん)に町の方に逃げていきました。
また、ある曇(くも)った日、本当の月はでていないので、タヌキにとってはもってこいの夜になりました。タヌキは、いつものとおりにほどよいところに枝と月をだして、人の来るのを持っていました。
“この月は古狸の仕業だ。いつかこらしめてやろう。“
と思っていた宮地(みやじ)の人がいました。その日、彼のところにやってくると、いつものように美しい月がでていました。
“よし、今日はこちらがだましてやるぞ。”
と心の中でいいました。
「違う、違う。月はもっと下でないといけない。」
それを聞いたタヌキは、どんどん月を下げました。
「いやいや、あんまり下った。もう少し上がよかろう。」
タヌキは少し上げました。
「高さはいいが、もっと右の方がいい。」
タヌキはあわてて右の方に月を動かしました。
「おかしいなあ、もう一方にも古枝(ふるえだ)があったはずだが…。」
それをきくと、タヌキはますますあわてて、つかまった手を枝に突きだしたからたまりません。大きな体がどしんと音をたてて地面に落ちました。
男はにっこり笑い、
「今日は私の方が逆にタヌキをだましたなあ。」
といって立ち去りました。
参考
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